音楽の仕事だけではない、自衛隊音楽隊。
音楽科隊員として入隊しても、自衛官の素養を身につける3ヶ月の新隊員教育は必須!
新隊員教育は民間企業でいう研修にあたります。音楽科隊員は音楽の演奏活動がメインですが、音楽科隊員といえど自衛官に変わりはありません。
入隊して3ヶ月間は自衛官の基礎となる訓練を受け、この教育を修了したあとに音楽の専門的な訓練を受けることができます。
運動経験ゼロの私が3ヶ月の新隊員教育を乗り越えたられた理由や、これから入隊する方・入隊を希望している方に役立つ情報をお伝えできれば幸いです。
新隊員教育の内容とは
3ヶ月間の新隊員教育では同期たちと共同生活を送りながら、自衛官に求められる知識や技術、集団生活の基本を学びます。
【生活面】共同生活をしながら、身だしなみや掃除の仕方などを学ぶ
【基本教練】自衛官として必要な動作や規律を学ぶ
(敬礼の仕方、立ち方、歩き方、隊列行動など)
【体力訓練】持久力や筋力などを向上させるための運動をする
(持久走、筋力トレーニング、障害走など)
【射撃訓練】自衛官としての基本的な火器の取り扱い方や射撃技術を学ぶ
(小銃射撃、小銃の分解、組み立て、射撃姿勢、照準の合わせ方)
【行進訓練】長距離を歩いて体力や忍耐力、精神力を養う
【戦闘訓練】実際の戦闘を想定した基本的な技術を訓練する
【精神教育】自衛官としての強い精神力や規律を身につける
【防護技術】化学兵器や生物兵器、核兵器に対する防護技術を習得する
【医療訓練】負傷者の応急処置や基本的な医療技術を学ぶ
新隊員教育を受けて印象に残っていること
私が新隊員教育を受けて印象に残っていること5つをお伝えします。
【生活面】
私は入隊する前にSNSなどを見て新隊員教育の訓練でどんなことをするのか大体予想できましたが、生活面においてはSNS上に情報がなかったのでどんな生活が待っているのか想像ができず不安でした。
現在は入隊時に髪の毛を切る必要はないそうですが、私が入隊した時は男性は坊主で女性はショートカット(髪の毛は襟足につかない、耳にかからない、前髪は眉毛にかからないよう)にしなければなりませんでした。私はずっとロングヘアだったのでショートカットにすることに抵抗がありすごく嫌だったので、入隊前日に髪の毛を切りました。(髪の毛を切るのが嫌すぎて美容院で泣きました(笑))髪の毛を切る前までは「こんな私が自衛官としてやっていけるのか」という不安がありましたが、いざ髪の毛を着るとスッキリとして今までの不安が無くなりました。
入隊当日の朝、広報官の方といっしょに新幹線で朝霞駐屯地へ向かいました。持ち込める荷物はボストンバッグ1つ。(キャリーケースはNGと言われました。)必要最低限の日用品や着替えを入れるとボストンバッグはパンパンになりました。私があまりに荷物を重たそうに持っているのを見て、広報官の方が「駐屯地の中にコンビニがあるから、シャンプーや洗濯用洗剤は朝霞駐屯地に着いてから買ってもいいよ!」とおっしゃってくださいました。そこで私はシャンプーと洗濯用洗剤をボストンバッグから取り出し荷物を減らしました。シャンプーと洗濯用洗剤を取り出したことをのちに後悔することとなります。
駐屯地に着いて受付を済ませると、これから3ヶ月間過ごす部屋に案内されました。部屋は10人部屋で二段ベッドが5つありました。同じ部屋で過ごす10人で1つの班が編成されます。すでに部屋に到着していた班員と挨拶をし、家から持ってきたジャージに着替え、やらないといけない作業を黙々とこなしました。
白い布に苗字を書き、紺色の統制ジャージ(上下)に縫い付けます。縫い付ける位置が決まっているので定規で測りながら縫い付けます。この名札の位置が少しでもずれているとやり直しをしなければなりません。私はガサツなので何度もやり直しすることになりました。
名札を縫い付けた後に「コンビニでシャンプーと洗濯用洗剤を買わないと!」と気が付きました。しかし、残念ながら受付を済ませて生活隊舎に入ってしまうと、自由に一人行動することができなくなります。つまり、駐屯地内のコンビニに行くことができなくなってしまったのです。駐屯地で受付をする前に買いに行けばよかったと後悔しました、、、。
入隊者全員が着隊した後、教官から生活隊舎の案内や設備の使い方などの説明を受けます。洗濯機は1班に1台。つまり、洗濯機は1台を10人で使います。10人で1台の洗濯機を使うということに驚きました。アイロンも1班に1台。洗濯機やアイロンが使える時間帯は決められています。
班員が仲良く効率よく動いているところは洗濯機やアイロンをみんなで上手に使っていましたが、仲が悪い班はいつも取り合い。喧嘩も勃発していました。元々古い洗濯機やアイロンがあり、運が悪いと壊れることもありました。そして、決められた時間内に全員がアイロンを使えなかったり洗濯が終わらなかった時に教官に見つかってしまうと使用禁止になります。もうこれが1番最悪のパターンです。ただでさえ時間がないのに、他の班の洗濯機やアイロンを借りないといけなくなり、迷惑をかけてしまうからです。
「自分さえ良ければいい」なんてことを考えている人は周りとうまく過ごすことはできません。思いやりの気持ちを大切にし、常にみんなで協力し合うことが大切なんだと学びました。
入隊日初日、同期みんなで入浴した時のこと。浴室も脱衣所も人で溢れかえっていて衝撃を受けました。シャワーは人数分ないので、2人で1つのシャワーを使いました。頭を洗っていると、隣のシャワーの水がかかってしまい、私の頭についている泡も流れてしまいました。結局、洗えてるのか洗えてないのかわからない状態で入浴タイムが終わりました。そして、私はシャンプーを持ってなかったので、コンビニに行けるようになるまでの1週間は毎日同期のシャンプーを借りることになりってしまいました。毎日お風呂の時間は申し訳ない気持ちになり、シャンプーを持っていかなかったことをかなり後悔しました。
着隊日の翌日、教官が私を含めて数名に声をかけました。これから怒られるのか?それとも、なにかお手伝いをするのか?、、、なにをするのか全くわからず向かった先は大浴場でした。ここに呼ばれた理由は、頭髪の色が明るかったからでした。私は入隊前日に美容院で黒染めをしたのですが、よく見ると少し赤みがでて明るくなっていました。私のように髪の毛が明るい人が大浴場に呼ばれて毛染めをすることになりました。入隊して2日目。まだそこまで仲良くなっていない同期と気まずい雰囲気の中、裸で髪の毛を染め合ったことは良い思い出です。
新隊員には「3歩以上は駆け足をする」という決まりがあります。つまり、基本どこかへ移動する時は2列になって走ります。走る速度や歩幅、足の左右を合わせて列が乱れないようにしなければなりません。新隊員は常に走っています。
この駆け足で1番きついのが食後です。毎日タイトなスケジュールなので、10分以内で食事を取ることがほとんどで、常に早食いをしなければなりません。早食いをしたあともすぐに駆け足をしないといけないので、食べたものが出てくるんじゃないかと思いながら走っていました。
ここで、私はあることに気づきました。一番前で走れば、自分のペースで走ることができるということに。それ以降食後の駆け足は、率先して1番前に行くようにしました。そうすることでやる気を見せることができ、自分のペースで走ることができました!これ、かなりおすすめです!(笑)
ここで少し豆知識を。時間がない時におすすめの食事方法をお伝えします!
「時間がない。でもご飯を食べてエネルギーをつけないといけない」という時におすすめなのが、「白米に塩をかける。味噌汁は絶対飲む。」です。夏の暑さで食欲がない時におすすめの食事方法です。熱中症にならないために、「塩分のある味噌汁を飲んで、白米に塩をかけて食べるんだよ!」と教官が教えてくれました。
日用品や衣類、教材などはすべてロッカーに収納します。このロッカーは1人ひとつあります。ロッカーの中の配置はすべて決められています。歯ブラシや歯磨き粉の位置や向き、教科書の位置(大きいものから順に並べる)、Tシャツのたたみ方(幅を揃える)や装備品の位置などすべて決まっています。配置が決まっている理由は、有事の際に誰が誰のロッカーを開けても、どこに何が入っているかを分かっておく必要があるからです。実際にこれが役に立ったことは何度もあります。
新隊員教育は基本的に厳しい時間設定の中で行動しているので、みんなで同じ行動をしていたら時間に間に合わないことがほとんどです。そのため、班の中でやることを分担し、みんなで協力して時間に間に合わせることを常に考えながら行動します。仲間と協力すれば厳しい時間設定の中でも間に合わせることができるということを学びました。
↑班員と担当の教官との写真\(^o^)/
②体力訓練
私にとって最大の試練であった体力訓練。実は、入隊する1ヶ月前にはりきってジャージを買い、近所をランニングしてみたのです!しかし、かなり遅いペースで走ったにもかかわらず、1キロくらい走って限界を迎えました。私が入隊する前にやったことはこれだけです。(笑)実際に入隊してみると私のように運動経験なしの同期は数人いましたが、ほとんどの同期は運動経験があり、なおかつ運動神経の良い元運動部が多かったです。
体力訓練の中で1番困ったのは【腕立て伏せ】です。腕立て伏せのルールはかなり厳しかったです。手は肩峰の位置に置き、足は肩幅に開きます。上体を下げる時に顎だけ下げてしまいがちですがこれはNGです。回数をカウントする教官が実施者の顎の位置に手を置いているので、体をくねらせたりせず常に一直線をキープしながら、教官の手の甲にしっかりと顎をつけます。このルールがとても厳しいのです。元々腕立て伏せができる人でも、このルールでやると一気にできなくなってしまうことも、、、。
走りが速くて運動神経が良くても腕立て伏せだけが苦手な人が多く、課業前や課業後、就寝前に腕立て伏せ苦手メンバーで集まり、スキマ時間に練習をしました。私は3ヶ月で2回だけできるようになりました。たったの2回?!と思うかもしれませんが、これが私の精一杯でした。0回→1回にするのにかなり時間がかかりました。初めて1回できた時は大喜びでした!!
③射撃訓練
射撃訓練は実弾を使うので射撃予習を何度も行います。
打ち方は3パターンあります。
- 【伏射ち(ねうち)】うつ伏せで射つ
- 【しゃがみ射ち】しゃがんで射つ
- 【ひざ射ち】立膝で射つ
【伏射ち】は、うつ伏せの状態で3.5キロの銃を持ち、重たい鉄帽を被っている頭を上げて、顔を正面に向ける姿勢なので、慣れるまできつかったです。
射撃訓練当日は普段と様子が少し違います。
1つ目は、教官がいつもより優しくなるということです。射撃訓練当日は新隊員の心理状態を乱さないように普段厳しい教官でも優しくなります。
2つ目は、3歩以上は駆け足をする決まりがあるのに射撃場まで歩いていくことができるということです。なぜかというと、射撃前に疲れさせないようにするためです。ただし、歩いても良いのは射撃場に向かうときだけで、帰りは駆け足をしなければなりません。
朝霞駐屯地の射撃場は生活している隊舎から遠く離れた場所にあり、射撃場に向かう経路にはアンダーパスと呼ばれる地獄の上下降があります。射撃訓練に必要な荷物を背負って小銃を持っているので、この格好でアンダーパスを走るのはかなり地獄です。小銃を持って走る時は、小銃を持つ位置をみんなで揃えなければなりません。小銃は3.5キロあり一定の高さをキープしながら走ることがきつく、疲れてくると小銃を持つ位置がだんだん下がってきてしまいます。
そして、肺活量を増やし持久力を上げるために、駆け足をする時はかけ声を出さなくてはなりません。これがまたきつい。人によっては声を出すほうが走りやすい!という人もいましたが、私は声を出すたびに息が上がってしまいきつかったので口パクで誤魔化しながら走りました(笑)
④行進訓練
3ヶ月の教育訓練の終盤に富士演習場で総合訓練をします。この総合訓練には行進訓練があります。
行進訓練は背嚢(リュックのようなもの)に荷物(確か20キロくらいかな?)を入れて背負い、小銃を持ちながら25キロ歩きます。歩く速度や休憩地点、休憩時間など全て決められています。
行進訓練の前に、私の班を担当してくれていた教官からプレゼントをもらいました。そのプレゼントは、行進訓練時に食べやすい飴やカルパス、カロリーメイトなどのお菓子でした。教官のメッセージが書いてあるジップロックに入っていてみんなで大喜びしました。
そして、行進訓練が始まり最初の休憩地点に到着しました。私達はまだ疲れてなかったのでみんなで集まって教官にもらったおやつを食べながら喋っていると、、、「おまえら遠足じゃねーんだよ!」と私達の担当じゃない教官に怒られました。(笑)それからは大人しく各々の場所で休憩することにしました。
時間が経つにつれ、足や肩が限界に近づいてきました。食欲もなくなり喋る気力もなくなりました。後半になってくるとリタイアする人もでてきました。
行進している列の後ろに、回収車と呼ばれる車がついてます。リタイヤした人はこの回収車に乗りゴール地点へ移動します。その回収車を見送るたびに、「私も乗りたい、、連れて行って、、」と何度も思いました。
私は運動経験ゼロのまま入隊してしまい、腕立て伏せはできないし走りも遅い、体力もない、、そんな私がこの総合訓練までやってこれたのは間違いなく班員のみんな、そして教官のおかげです。だからこそ、「ここでリタイアするわけにはいかない!走りは遅いし腕立て伏せは2回しかできない私はこの更新訓練で頑張るしかない、、!」と強い気持ちを持ちながら、無事に最後まで歩き切ることができました。歩ききったときの達成感は今までに感じたことのないほどでした。それと同時に、この行進訓練は今まで生きてきて中で1番きつい出来事だったと感じました。(教育訓練が終わり配属された後、もっときつい行進訓練が待っているとこの時は想像もしていませんでした、、。(笑))
この行進訓練は運動神経が良い悪い、走りが速い遅いなど一切関係ないんだと気づきました。なぜなら、行進訓練は自分の限界を突破できるかどうかの訓練だからです。準備(体力&物)をどれだけやったか、そして限界を突破できる根性があるかどうかが試される訓練です。
ちなみに、背嚢(リュック)に荷物を入れるときにいくつかのポイントがあります。重い順に荷物を入れると安定して背嚢を背負うことができます。また、左右対称に荷物を入れないと歩いているうちに背嚢が傾いてしまい、片方の肩だけに負担がかかってしまいます。自衛隊に入っていなかったらこの知識を得ることはなかっただろうと思います。
⑤戦闘訓練
戦闘訓練では、戦術や敵の攻撃を避けるための動き方や隠れるための方法を学びます。敵に見つからないように前へ進む時は匍匐前進をします。匍匐前進は5種類あります。
【第1匍匐】:右手に小銃を持ち、左手は地面につきます。腰を浮かせて前進するので5種類の匍匐前進の中で最も姿勢が高く、1番スピードを出すことができます。
【第2匍匐】:腰を落としてお尻を地面につけた状態で匍匐前進します。第1匍匐よりも少し低い姿勢です。
【第3匍匐】:肘を地面について匍匐前進します。第2匍匐よりも少し低い姿勢です。
第3匍匐までは片肘と片足で前進します。
【第4匍匐】:1番有名な匍匐前進です。うつ伏せになり、肘と足で前進します。
【第5匍匐】:草などを掴み地面に顔をべったりつけて前進します。最も低い姿勢の匍匐前進です。
匍匐前進で私が心がけていたのは、第1匍匐でどれだけ前進するかです。なぜなら、第5匍匐になるにつれて姿勢がきつくなり、体力が無くなってしまうからです。私は第1匍匐で全力を出して前進し、できる限り距離をかせぎました。
私は花粉症で匍匐前進の訓練をする演習場へ行くだけで鼻水が大量に出て、くしゃみが止まりません。そんな私にとって第5匍匐は最悪です。なぜなら、顔と草の距離がゼロだからです。顔と草の距離がゼロだとさすがに花粉症の薬を飲んでいても効きませんでした。なるべく顔を地面につけないようにしていたのですが、みんなより頭が上がっていて教官にバレてしまい、何度か怒られました。
匍匐前進で顔を地面につけているとティッシュを出すタイミングがなので、手で鼻水を拭き取っていました。ここまでくると鼻水が垂れて口に入ってこようが、手で鼻水を拭こうが、もうどうでもよくなってくるのです。訓練が終わった後、ティッシュを使って鼻水を拭取れると、なんて幸せなんだと感じることができました。
運動経験ゼロの私が、3ヶ月間の厳しい訓練を乗り越えられた理由。
私が3ヶ月間の教育訓練を乗り越えられたのは、同期という仲間がいたからです。
私ひとりでは乗り越えられなかったです。
この3ヶ月間、寝ている時間以外は常に同期がいます。楽しいことや辛いこと、苦しいこと、ときには言い合いをしたりと、、、毎日色んな感情が湧き上がってきました。この3ヶ月間はまるで学生にもどったような期間でした。私が辛い顔をしながら走っていると横で走っていた同期が私の腕を引っ張ってくれたり、休日はみんなでお出かけして美味しいものを食べたり遊んでリフレッシュしたり。社会人になってから再びこんな青春を経験することができ同期や教官には感謝の気持でいっぱいです。
「1人では乗り越えられないことも、みんなとなら乗り越えられる。」
ありきたりな言葉かもしれませんが私自身この教育訓練を経験し、この言葉は本当なんだと改めて思いました。運動経験ゼロでも仲間がいれば必ず乗り越えられることができます。自衛隊を退職した現在も、たった3ヶ月しか一緒にいなかった同期といまだに会ったりするほど仲が良いです。
自衛隊は自分の心と身体を今までよりもさらに強く鍛えることができ、一生の仲間ができる最高の仕事です。
そしてこの3ヶ月間の訓練を通して、鼻水をティッシュでかめること、ご飯をゆっくり食べられること、湯船にゆっくり入れることなど、、些細なことでも幸せを感じることができました。
体力に自信がなくて入隊するか迷っている方、大丈夫です。こんな私でも乗り切ることができたのですから。ぜひ、チャレンジしてみてください!!
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